社長ブログ

解体されるからこそ見えてくる価値 ~ 大屋根リングが教えてくれた「見えない仕事」の尊さ ~

2026.06.17

 先日、NHKの「解体キングダム」を視聴しました。
 今回取り上げられていたのは、大阪・関西万博のシンボルとして建設された大屋根リングです。私は残念ながら万博を訪れる機会を得ることができませんでした。ニュースや映像を通してその存在は知っていましたが、実際にその場に立ち、その大きさや木の温もりを感じることなく終わってしまったことに、どこか心残りがありました。
 しかし、番組を見終えた今、心に残ったのは「行けなかった後悔」ではなく、「こんな素晴らしい建築物が日本に存在したことを知ることができてよかった」という静かな感動でした。それは単に巨大な建築物だったからではありません。そこには、人々の知恵と技術、そして未来へつなごうとする思いが詰まっていたからです。

 大屋根リングは世界最大級の木造建築として注目を集めました。リング状に広がる壮大な姿は、まるで人々を優しく包み込むようでもあり、未来へ向かう希望の象徴のようにも見えます。番組では、その美しい姿だけではなく、建設に込められた工夫や技術、そして解体作業の様子が紹介されていました。私はそこで改めて、日本の木造建築技術の奥深さを感じました。古くから受け継がれてきた木組みの技術。安全性を支える最新の設計技術。巨大な構造物を成立させるための緻密な計算。そして、それらを形にする職人たちの経験と技術。一つひとつが重なり合って、初めてあの壮大な建築物が生まれたのです。

 私たちは完成した建物を見ることはできます。しかし、その背景にどれだけ多くの人々の努力があるのかを知る機会はあまりありません。だからこそ、解体という視点から建築物を見ることで、その本当の価値が見えてくるように感じました。番組を見ながら、何度も木材に目を留めていました。普段であれば建物全体の大きさや美しさに目が向きます。しかし解体の場面では、一つひとつの部材が主役になります。職人たちは木材を丁寧に取り外していきます。ただ壊しているのではありません。まるで長年連れ添った仲間を送り出すように、慎重に、そして大切に扱っているように見えました。その姿を見ながら、不思議な感覚になりました。木材を見ているはずなのに、その向こうに人の姿が見えるような気がしたのです。木を育てた人。伐採した人。運搬した人。加工した人。設計した人。組み上げた人。そして、その空間を訪れた人。一本の木材には、多くの人々の時間や努力、思いが積み重なっています。だからこそ職人たちは木を大切に扱うのでしょう。木を守っているのではありません。その木に関わった人々の仕事を守っているのです。私は長年、教育に携わってきました。教育の成果は、時にテストの点数や進学実績として表れることがあります。しかし、本当に大切なものは数字では測れません。子どもたちへの声掛け。励まし。見守り。失敗した時の支え。日々の小さな積み重ね。それらは目立つことはありません。しかし、その見えない積み重ねがあるからこそ、人は成長していきます。

 大屋根リングを見ながら、私は教育の世界と重なるものを感じました。完成した建物だけが価値なのではありません。そこへ至る過程にこそ価値があります。だからこそ、見えない努力を大切にしたいと思うのです。また、番組を見ながら、会社を経営する立場としても多くのことを考えました。営業という仕事は、しばしば「商品を売る仕事」と捉えられます。しかし私はそうは思いません。営業とは、信頼を築く仕事だと思っています。どれほど優れた商品やサービスであっても、信頼がなければ選んでいただくことはできません。一方で、信頼関係が築かれていれば、長いお付き合いにつながります。

 解体という言葉からは「終わり」を連想しがちですが、番組を見終えた私はむしろ「始まり」を感じました。大屋根リングの木材は、役目を終えた後も新たな場所で活用されていきます。形は変わっても価値は失われません。教育も経営も同じです。子どもたちは卒業し、社員は成長し、お客様との関係も次の出会いへとつながっていきます。私たちの仕事は、未来へ価値を手渡していく営みなのです。
 だからこそ、「壊す」のではなく「次へ渡す」という視点に大きな意味を感じました。
 大屋根リングは解体されましたが、本当に失われたものは何もないのかもしれません。建物はなくなっても、そこから生まれた技術は残ります。経験は残ります。挑戦した人々の誇りも残ります。そして、その知見は次の世代へ受け継がれていきます。目に見えるものはいずれ形を変えます。しかし、人との信頼や学び、経験や思いは残り続けます。私たちが本当に残したいものは何なのか。番組を見ながら、そんなことを考えていました。<令和8年6月17日 NO.55>

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